アルバート・ベンジャミン・シンプソン(Albert Benjamin Simpson、1843年12月15日 – 1919年10月29日)は、カナダ生まれのプロテスタント牧師、神学者、賛美歌作家、そして宣教師運動の先駆者です。彼は特にキリスト教宣教同盟(Christian and Missionary Alliance, C&MA)を設立したことで知られ、世界的な宣教活動を推進し、多くの人々に影響を与えました。
生涯と経歴
- 生い立ちと教育
シンプソンは、カナダのプリンスエドワード島で生まれ、スコットランド系移民の敬虔な家庭で育ちました。若い頃から深い信仰心を持ち、16歳の時に個人的な信仰告白を行いました。その後、トロントのノックス神学校(現トロント大学の一部)で学び、改革派教会(長老派)の牧師としての道を歩み始めます。 - 牧会と宣教活動
シンプソンはカナダでの牧会を経て、アメリカ合衆国に移り、ニューヨーク市にある大規模な長老派教会の牧師となります。しかし、彼は都市部での労働者階級や移民への伝道活動に関心を深め、これが伝統的な教会の枠を超える新しい活動を開始するきっかけとなりました。 - キリスト教宣教同盟(C&MA)の設立
1887年、シンプソンは都市の貧困層や海外の未開拓地域に福音を届けるために、キリスト教宣教同盟を設立しました。この団体は「福音宣教」と「キリスト教徒の聖化」を中心テーマに掲げ、シンプソンの神学は「キリストの全き救い」(Fourfold Gospel) に基づいています。これは以下の4つの側面を強調しています:
「四重の福音」
- キリストは救い主(Savior)
- キリストは聖化者(Sanctifier)
- キリストは癒し主(Healer)
- キリストは再臨の王(Coming King)
- 文学と賛美歌
シンプソンは数多くの書籍や記事を執筆し、その中には神学的論考や霊的指導に関するものが含まれます。また、多くの賛美歌を作詞し、信徒たちの信仰を深める役割を果たしました。
功績と影響
- 宣教活動の発展
シンプソンの活動は、北米だけでなく、アジア、アフリカ、南米を含む多くの地域での宣教活動の基盤を築きました。C&MAは現在でも世界中で活動を続けており、シンプソンのビジョンが受け継がれています。 - 「癒しの信仰」の普及
シンプソンは病気の癒しと信仰を結びつけた実践を推進しました。この考え方は後のペンテコステ運動やカリスマ派の神学にも影響を与えています。 - 社会的福祉活動の推進
都市の貧困層への関心や移民への支援活動は、今日の教会における社会福祉活動のモデルとなりました。
<設立した主な施設>
- ニューヨーク・ゴスペル・タバナクル(New York Gospel Tabernacle)
- シンプソンがニューヨークで設立した教会で、貧困層や移民への伝道活動の拠点となりました。この施設は、従来の教会形式を超えた包括的な福音宣教活動を行う場として機能しました。
- 宣教師訓練学校(Missionary Training Institute)
- 1882年にニューヨーク州ナイアックに設立された学校。後に「ナイアック大学(Nyack College)」として知られるようになり、世界中の宣教師を育成する教育機関となりました。現在も存在しており、多くの卒業生が宣教活動に従事しています。
- キリスト教宣教同盟(Christian and Missionary Alliance, C&MA)
- シンプソンが1887年に設立した団体で、初期の段階から都市部の貧困層や海外の未開拓地域への宣教に力を入れました。現在では世界中に数千の教会や施設を持つ国際的な組織に成長しています。
- 癒しの家(Healing Homes)
- 病気で苦しむ人々に信仰を通じた癒しを提供するための施設を設立しました。この活動は、彼の神学的な柱である「癒し主としてのキリスト」を具現化するものでした。
書籍と雑誌
- 雑誌『The Word, the Work, and the World』
- 1881年に創刊された、シンプソンが編集・発行した雑誌です。この雑誌は、彼の神学的思想や宣教活動の報告、信徒への励ましを発信する主要な媒体でした。後にThe Alliance Weeklyに改称
- 現在はAllianceLifeとして継続発行中
- 著書
シンプソンは多くの著書を執筆しており、主に信仰、癒し、宣教に関するテーマを扱っています。その中でも有名なものには以下があります:- 『The Gospel of Healing』(癒しの福音)
病気の癒しに関する信仰的理解を記した著書で、多くの読者に影響を与えました。 - 『A Larger Christian Life』(より豊かなクリスチャン生活)
信仰生活の深まりを追求する人々のための霊的ガイド。 - 『Missionary Messages』(宣教メッセージ)
宣教活動の重要性と実践について書かれた書籍。 - 『The Fourfold Gospel』(四重の福音)
シンプソンの神学の中心となる「キリストの全き救い」について詳述した著書。
- 『The Gospel of Healing』(癒しの福音)
- 賛美歌集
シンプソンは約100曲の賛美歌を作詞し、これらは後に賛美歌集としてまとめられました。有名な賛美歌には「Jesus Is Coming Again」や「Yesterday, Today, Forever」などがあります。
施設や団体の規模
ナイアック大学の影響
ナイアック大学はシンプソンの教育理念を受け継ぎ、福音宣教のためのリーダーを輩出しています。
C&MAの発展
シンプソンが設立したC&MAは、彼の生前から国際的な拡大を遂げており、彼の死後も成長を続けています。現在、C&MAは以下の規模を誇ります:
教会数:世界中で約6,000以上の教会(うち北米に約2,000)
宣教師:約700人以上が世界各地で活動
活動地域:90カ国以上に展開
シンプソンの働き、彼の著作やC&MAの活動は現在も多くのクリスチャンに影響を与えています。彼が説いた「キリストの全き救い」の神学的枠組みは、現代の福音主義の中核に位置づけられるものとなっています。
シンプソンは、単に神学者としてだけでなく、実践的な宣教者としても顕著な足跡を残し、今日でも彼の名はキリスト教界で広く知られています。